2013年7月4日木曜日

赤字国債と世代間格差のメカニズム

ある小さな島の話。

一人の偉大なお祖父ちゃんがいました。

「家族・親族、いや島中の全員からお金を集めて、毎年数億円の借金をし続けよう!」

何を言い出すんだ!?借金ほど怖いものはない。収支は均衡を保たなければ大変なことになる。そう考えていた人々は驚きます。

しかし彼には壮大なビジョンがあったのです。

全ての家族に家を立てよう。道路や上下水道や公共施設を整備しよう。
老後の生活は、皆でお金を配って保証する制度にしよう。
すべては島の将来のため。夢と安心を分かち合おう。
私たちはもっと発展できる。所得は倍になる。借金は投資なのだ。

語られたビジョンと情熱に、島民は納得しました。数億円の借金は、お祖父ちゃんのためでも、誰のためのものでもなく、皆の将来のため。だから債務の名義は「島のみんな」でした。

お祖父ちゃんは島の首長として、島民会議にてリーダーシップを発揮し、各々の家族や個々人に仕事を割り振っていきました。皆もよく働きました。毎年多くのお金が、「島のみんな」会計から報酬として個々人に支払われます。

島はどんどん豊かになりました。確かに収入は倍になりました。

お祖父ちゃんの子供達はとても喜びました。
「本当に沢山の仕事をもらった。多くの財産を築けた。老後の保障も手厚い。なんてありがたいのだろう」と、父と島民の偉大さを誇らしく思って感謝しました。

皆も同様の想いで自分たちの発展を喜び称えました。


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そして数十年後

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当時の孫・ひ孫の世代が20~40歳になり、働く現場の中心は彼らとなっていました。新しい世代は、お祖父ちゃんと当時の大人達に、感謝の気持ちがさほど湧きませんでした。

返せないほどの膨大な借金が、「島のみんな」名義で残されました。それは新しい世代が返済しなければならない義務でした。

旧世代は言います。
きちんと働けば、私たちのように豊かに安心して暮らせる。「島のみんな」を信じなさい。老後の生活保証の制度を信じなさい。豊かに発展した私たちの力を誇りなさい。

かつて建てた住宅やマンション、整備した道路や施設の数々は古くなり、更新とメンテナンスの費用は膨大にかかります。それらの仕事は、昔ほど島民から必要とされることも喜ばれることもなくなりました。以前に比べて受注の競争は激しく、低賃金かつ夢のない仕事でした。

そもそも島の人口は減る一方です。空家と遊休の施設は増えるばかりです。そのような現状を目の前にして、旧世代が残した有形無形の財産を引き継ぐことに対して、誇りや喜びの実感が伴いません。むしろ資産というより負債に思えてきます。新しい世代には、旧世代が築いた島民のための富を引き継ぐことに、権利よりも義務の方が強いと感じる人も少なくありません。

その象徴が、老後の安心のためにつくったお金を配る制度です。新しい世代は、どうやら旧世代の数分の一しか貰えないようです。この世代間の助け合いと称される制度の矛盾について、納得できる説明はありません。不信感と経済的な余裕のなさによって、やがて新しい世代においてこの制度への納入率が半分になります。これを問題視する旧世代の人たちの中には、「子供を産まないのが悪い」「伝統的な家族観や島民意識が失われている」と、人間性や公共意識の低下が原因かのように危機感を訴える人たちがいるようです。


ある若者は思いました。


なぜ、こうなってしまったのだろうか。

ここだけではない。隣の島も、その隣の島も同じだ。
経済的に豊かになった後に、強烈な世代間格差が起こっている。

それは一体何故なのだろうか。




つづく。

財務省 少子高齢化の進展より


(出所) Kotlikoff et al. (1999) Generational Accounting Around the World
※各国別・年齢別の生涯純受益を算出した上で、1995年時点での0歳世代の生涯負担に対する将来世代の生涯負担の比率を計算したもの。

1 件のコメント:

  1. 非常にわかりやすい、赤字国債の説明ありがとうございます。

    更に詳しく赤字国債、世代間格差についてご教授いただけると幸いです。

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