2013年5月23日木曜日

正義であること

何の為に生まれて
何をして生きるのか
答えられないなんて そんなのは嫌だ

今を生きることで 
熱い心 燃える
だから君は行くんだ 微笑んで


そうだ嬉しいんだ 生きる喜び
例え胸の傷が痛んでも




これ、何の歌か分かりますか?



何が君の幸せ
何をして喜ぶ
分からないまま終わる そんなのは嫌だ


忘れないで夢を
こぼさないで涙
だから君は飛ぶんだ どこまでも

そうだ怖れないで 皆のために
愛と勇気だけが友達さ


時は速く過ぎる
光る星は消える
だから君は行くんだ 微笑んで

そうだ嬉しいんだ 生きる喜び
例えどんな敵が相手でも

ああ アンパンマン 優しい君は
行け 皆の夢守るため



アンパンマンのマーチです。娘と一緒に聴いていたのですが、初めてじっくりと歌詞を読んで驚きました。メッセージの迫力に。


あなたは何のために生まれて、何をして生きるのでしょうか。答えられますか?
あなたは何が幸せで、何をして喜ぶのでしょうか。分かりますか?

1番も2番もメロディの初っ端から、大人がたじろぐほどのテーマを直球で投げかけてきます。
この歌詞の厳しさを際立たせているのは、ヒーローであるアンパンマン(漫画家やなせさん)の立場を明確にしていることです。

「答えられない。分からない。そんな生き方、僕は嫌だ

ズドンときます。多くの人が自分の生き方に迷っていることも、納得いく人生を歩んでいるわけではないことも、承知のくせに容赦がありませんよね。嫌いという価値判断をあえてすることで、問いの切れ味を鋭くしています。

自分の人生に向き合えているのか。心の声に誠実であるのか。ごまかしてはいないか。自分の存在に意味を見出せているのか。それに燃えて、生きる喜びを感じているか。胸を張って答えられるだろうか?・・・まさに生きることを考えさせる歌詞ではないでしょうか。

これが子供向けアニメのテーマソングなのかと、衝撃をうけました。

人間のなんたるか。人生とは。愛とは。そういうことを考え尽くしてきた方にしか書けません。それにこの歌詞にはメッセージを伝えようとする信念が明確にある。その迫力は普通ではない。作詞をしたやなせたかしさんは一体どんな方なのだろうかと興味が湧きました。


同時に思い出しました。

「愛と勇気だけが友達さ」の意味について考えた二つの出来事。

「ヒーローなのにリアルの友達いないの?愛と勇気だけのアンパンマンって可哀そう~」というネタは、僕が小学生の頃から言われていました。

子供にとって「友達」というのは、100人できるかな~って歌いたくなる存在です。だからこそ「だけ」という限定の助詞は、違和感を伴う強いインパクトがあります。もちろん少なくても構わない人もいます。だとしても、深く理解し合える親友がいればいいよね、という意味でしょう。この歌詞の場合、親友「だけ」でいいということでもありません。

そんな小学校の低学年の思い出から十数年後。『トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~』というテレビ番組で、やなせさん本人がVTRに出演し、この歌詞の意味について指摘されてこう答えています。

「語呂がいいのでなんとなくそういう歌詞にした」

強引すぎでしょ!なんだよ、愛と勇気という言葉を使いたかっただけかよ。
と、この時はまったく疑問に思わず笑っていました。


以上の経験を改めて振り返り、
この歌詞の意味の深さを理解できるようになった今、思います。
「語呂がいいからそうした」という発言は、やなせさんのテレビ視聴者向けの嘘です。
この箇所には深いメッセージが確実に込められています。
本人が語呂合わせと言おうが信じません。
生半可な気持ちでこのテーマソングは絶対に書けません。

そういう気持ちで調べたら、沢山のヒントが見つかりました。まず、やなせさんの言葉です。

アンパンマンのテーマソングは僕の作詞だが、幼児アニメーションのテーマソングとしては重い問いかけになっている。僕はお子様ランチや、子供だましの甘さを嫌った。

アンパンマンのテーマソングは「なんのために生まれて、なんのために生きるのか」というのですが、実は僕はずいぶん長い間、自分がなんのために生まれたのかよくわからなくて、闇夜の迷路をさまよっていました。

メッセージが必要なんです。おもしろくすることばかり考えていると、肝心なものが抜けてしまいます。ただおもしろいというだけではいい作品とはいえません。芸術映画でなくても、見る人の心に残るメッセージは必要不可欠。それが僕の作品を作る上での信念なんです。
絵本作家やなせたかしの名言より


≪なんのために生まれて/なにをして生きるのか≫
「これは哲学の永遠の命題みたいなものだけど、『なんのために生まれてきたか』ってわからないまま人生を終えるのは残念ですね。この歌を子供の頃からずっと歌っていると、考えることが自然と身に付くような気がするんだ。そしてある時になると、わかる。僕がわかったのはいつかって? 60過ぎてからだな(笑)。遅いんだよね」
NEWSポストセブンインタビューより


「子供だましの甘さを嫌った」と言い切っているところ、心底好きです。

そして、「愛と勇気だけが友達さ」という歌詞の「だけ」が、決して語呂合わせではない裏付けが見つかります。


『勇気のルンダ』 歌手:アンパンマン(戸田恵子) 作詞:やなせたかし 

ナンダ ナンダ ルンダ
ガンバ ルンダ ルンダ
たたかう時は心にいうんだ
たよるものは なにもないんだ
勇気ひとつが 友だちなんだ


別のアンパンマンの歌では、「勇気ひとつが友達なんだ」と言及しています。どうやら、「友達」という言葉をあえて普通とは違う使い方をしている様です。明確なメッセージがあることに確信を深めます。

著書「わたしが正義について語るなら」を読んだ感想レビューの中から、この歌詞の意味を説明している引用文の記述を見つけました。


「アンパンマンのマーチの中」に、愛と勇気だけが友達さ、という歌詞があります。それで抗議がきたことがあるんだけど。これは、戦うときは友達をまきこんじゃいけない、戦うときは自分一人だと思わなくちゃいけないんだということなんです。お前も一緒に行け、と道連れを作るのはよくないんですね。無理矢理ついてくるなら仕方ないけどね。横断歩道もみんなで渡れば怖くない、悪いことをするときにも群集でやれば怖くないというのがあるけど、責任は自分で負うという覚悟が必要なんだということなんです」


戦うとき、責任を自分で負う覚悟のない人たちが「お前も行け」といい、群衆でやれば怖くないと友達を巻き込んでいく出来事とは何か。

戦争です。

やなせさんは御年94歳。1919年生まれです。(やなせたかしwikipedia
戦争体験があります。

そしてこの記事。

NEWSポストセブン インタビュー

「アンパンマン」を創作する際の僕の強い動機が、「正義とはなにか」ということです。正義とは実は簡単なことなのです。困っている人を助けること。ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為を「正義」と呼ぶのです。
なにも相手の国にミサイルを撃ち込んだり、国家を転覆させようと大きなことを企てる必要はありません。アメリカにはアメリカの“正義”があり、フセインにはフセインの“正義”がある。アラブにも、イスラエルにもお互いの“正義”がある。つまりこれらの“正義”は立場によって変わる。でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。絶対的な正義なのです。

アンパンマンに込められていたのは、やなせさんの人生における「正義とは何か」という問いだった。

それが、やなせさんの人生の深さをもって、込められていたのです。




「愛と勇気だけが友達さ」




いつか僕は、娘にこのテーマソングの意味を伝えるでしょう。
僕が心で読んで感じたやなせさんの戦争体験と精神を語りながら。
その著作を添えて。


やなせさん、ありがとう。

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